あれ?価格を上げたのに利益が減った…その違和感、放っておいて大丈夫?
「よし、少し値上げしてみよう」。
競合もいないし、うちの商品にはファンも多い。そんな背景があって価格を上げたのに、なぜか月末の帳簿を見ると利益が思ったほど増えていない。下手をすれば、前よりも減っていた。そんな経験、ありませんか?
この違和感の正体をちゃんと掘り下げないままにしてしまうと、あとから取り返しのつかないズレを生むことがあります。特に独占市場では、価格設定に外からのフィードバックが入りにくいため、自社内での判断に頼るしかありません。だからこそ、この「違和感」を放っておかないことが大切なんです。
価格を上げたことで売れる数が減ってしまい、利益全体が落ちる。それは「よくあること」で済ませていい話ではありません。そこには明確な原因があり、改善の余地があるんです。
ライバル不在=無敵ではない?独占市場に潜む落とし穴
「うちは競争相手がいないから強い」と感じるのは自然なことです。実際、ニッチ市場や特殊な技術を持つ会社は価格主導権を握っていることが多いですよね。その状況は一見とても恵まれていて、強みだと思われがちです。
でも、競合がいないということは、外からの価格の“基準”や“相場感”が見えにくくなるということでもあります。つまり、どの価格が妥当か、どれだけ利益が出るかといった判断を、すべて自分たちで行う必要があるのです。
このとき、社内でよく使われるのが「感覚」や「過去の事例」です。たとえば「去年はこの価格で売れたから、今年も大丈夫だろう」や「この価格なら現場も売りやすいはず」など。しかし、こうした判断は市場の変化や顧客心理を見落としやすく、価格戦略がズレる原因にもなります。
独占市場では、競争がない代わりに「自分で自分を律する力」が問われるんです。そのバランスを失ったとき、利益が減っても気づけない、という怖さが潜んでいます。
値段を上げれば儲かると思ってた…よくある勘違い
「単価を上げれば、1つ売れるごとに利益が増える。だから、全体の利益も増えるはず」
多くの人がそう考えますし、実際、ある程度まではその通りです。でもこの考え方には、大きな“落とし穴”が潜んでいます。
商品やサービスの価格を上げると、多くの場合、購入数が減ります。顧客は「高くなったな…」と感じ、購買を控えたり、タイミングを遅らせたりするんですね。結果として、「1個あたりの利益は増えたけど、全体の利益は減った」ということが普通に起きます。
さらに厄介なのは、独占市場では「比較されにくい」ため、顧客の声が売上の変動でしか見えてこないということ。誰も文句は言っていないけれど、知らないうちにリピートが減っていたり、口コミで“割高感”が広がっていたりすることもあります。
逆に、少しだけ価格を下げたことで購入数が一気に増え、結果として利益が伸びるということもあります。感覚ではなく、数字をもとに「どこが一番利益が出るポイントか」を見極める視点が必要なんです。
感覚で値付けしてると、気づかないうちに利益が漏れてるかも
価格設定の会議で、こんな会話があったことはないでしょうか?
「現場がこの価格なら売りやすいって言ってる」
「去年もこの金額だったし、大丈夫じゃない?」
「高くしてクレームきたら困るから、ちょっと安めにしとこう」
どれも、現場の経験や感覚に基づいた言葉です。でも、それが「利益を最大化する価格」かどうかは、また別の話なんですよね。
特に独占的な立場にある会社は、「価格が少し違ってもお客様は離れないだろう」という安心感があるかもしれません。けれど実際には、少しの価格の差でリピートが落ちたり、購入頻度が変わったりする微妙な影響が、じわじわと収益に効いてきます。
こうした“利益の漏れ”は、月単位では見えにくくても、年単位で見ると大きな差になります。そしてその損失は、「正しい価格設定をしていたら得られていたはずの利益」です。知らないうちに失っていたと気づいたときには、もう遅いかもしれません。
だからこそ、価格の決定には「なんとなく」ではなく、ロジックを持ち込む必要があるんです。
価格設定にロジックを持ち込むだけで、利益が安定し始める理由
では、どうすれば感覚だけに頼らずに価格を決めていけるのでしょうか。
その答えのひとつが「限界収入(MR)」という考え方です。
限界収入とは、商品を1つ多く売ったときに増える収入のことです。たとえば、10個売って1万円の売上だったのが、11個売れて1万500円になったなら、その「500円」が限界収入です。
ただし独占市場の場合、もう1個売るには全体の価格を下げなければならないことが多く、そのとき他の商品の売上も下がるので、実際の限界収入は単価よりも低くなるのが普通です。ここが重要なポイントです。
この「限界収入」と、1つ作るのにかかるコスト=「限界費用(MC)」を比べることで、「今の価格は利益を増やす価格か、減らす価格か」が見えてきます。MRがMCより大きければ、まだ価格を下げてでも販売を増やしたほうが利益が増えるということ。逆に、MRがMCを下回っていれば、売っても売っても利益が減っている状態です。
このロジックを知っているかどうかで、価格戦略の精度は大きく変わります。エクセルでも簡単にシミュレーションができますし、複雑な数式を使う必要はありません。
大切なのは「価格を1単位変えたときに利益がどう動くか?」を、感覚ではなく数字で捉えてみるという姿勢です。
今すぐできる一歩:価格を1円変えたときの収益の動きを見てみよう
「限界収入なんて難しそう」と感じた方もいるかもしれません。でも、やることは意外とシンプルです。
まずは、直近の売上データを使って、価格を少し変えたときに売上と利益がどう動いたかを見てみましょう。たとえば、A商品を1000円で売っていた時期と、980円で売っていた時期を比較して、販売数・売上・利益を一覧にしてみるだけでも、違いが見えてきます。
そのうえで、「価格を1円下げたら、何個多く売れたか?」「その結果、利益は増えたのか?」を見てみてください。それだけでも、限界収入の感覚がつかめるようになります。
また、今後の価格変更をする前に、「この価格変更で限界収入はどう変わりそうか?」と仮説を立てるクセをつけるだけで、戦略がグッと実践的になります。
価格の決定権を持っているからこそ、それを最大限活かすロジックを身につけたいところ。たった1円の違いが、1年後の利益を大きく変えるかもしれません。その一歩を、今日からはじめてみましょう。